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売れるペットフードはどう作る?── 原材料を選ぶ前に決めるべき“設計図”とは?

ペットフード開発は参入しやすく見えますが、ビジネスとして一定の成功を収めることは簡単ではありません。
売れるフードに必要なのは、原材料より先に「設計図」を決めること。
本記事では、ペットフード開発を考えている企業が失敗しない開発の順番とポイントを解説します。

ペットフード開発の第一歩は「材料選び」ではない

「新規事業でペット商品を作りたい」と考える時に、まず思い浮かぶのがペットフードかも知れません。毎日食べるものですし、気に入ってもらえたらリピートも狙える。原材料などで差別化もしやすい。

また、OEMや小ロット生産の仕組みが整い、レシピさえ作れば誰でも商品化できるように見えることもあり、ペットフードの開発は「参入しやすい」と思われがちかも知れません。 しかし現実はその逆!売れるペットフードは“勘”や“流行り素材”では作れません。

多くの企業は、開発を始めるときにまず原材料の検討から入るかと思います。
ヒューマングレード、グレインフリー、国産、放牧鶏の肉、オーガニック野菜、MCTオイル、高たんぱくレシピ…。
こうしたワードを並べれば、それだけで“良さそうなフード”ができるように思えてしまう。
ですが、これは料理で言えば「誰に作るのか、何のために作るのか、を決めずに材料だけ先に買いに行く」状態です。
本当に必要なのは“材料”ではなく、その材料を選ぶための「設計図」なのです。

この設計図が曖昧なままだと、こんな問題に直面しがちです。
・結局ありきたりなフードになる
・飼い主の課題に刺さらず広告費だけが消える
・工場側とのやり取りが迷走し、コストだけが膨らむ
・短期的に売れてもリピートされない

あたりまえですが、ペットは自分でフードを選べません。選ぶのは飼い主であり、飼い主は“暮らしの中の悩み”を解決したいと思ってフードを探しています。
だからこそペットフードは、飼い主の課題とペットの健康要件を同時に満たすものとして設計されなければいけません。

設計図①:WACELフレーム+Hで「誰のためのフードか」を定義する 

さて、いきなり「設計図」と言われてもなにをどのように設計したら良いのか、見当がつかないですよね。ここからは設計図の作り方を5つのステップで説明していきましょう。

まず必要なのは、「誰の暮らしをどのように支えるフードを作るのか」を、具体的に言語化することです。
ここが曖昧だと、「なんとなく健康そう」「うちの子は食べた」といった印象レベルの訴求にとどまり、結果として“選ばれる理由のないフード”になってしまうことも。

そこで、ペットフードの開発をするうえでまず整理したい大事な要素をお伝えします。私はこれを「WACEL(ワクル)フレーム+H」と名付けています。「フレーム=枠=ワクル」と覚えていただけたら良いかと思います。

最低限、次の5つのW(+H)を整理しておきましょう。

W|Who(だれのため?)
犬用なのか・猫用なのか、どのペットに向けた商品か。
→ 「どの家族のためのフードか」

A|Age(いつのため?)
パピー/成犬/シニア、子猫/成猫/シニアなどライフステージ。
→ 「どの時期の暮らしを支えるか」

C|Condition(どんな体質・状態?)
アレルギー・肥満・関節・消化不良など、健康面や体質の前提。
→ 「どの課題を抱える子か」

E|Eating(どう食べる子?)
小食・偏食・早食い・噛まない・吐き戻しやすいなど食性。
→ 「どんな食べ方の癖があるか」

L|Living(どう暮らす子?)
室内外・運動量・多頭飼育・留守番時間など生活環境。
→ 「どんな暮らしの中で食べるか」

+H|How Support(どう支える?)
上の5要素を受けて、栄養設計/粒形状/香り立ち/製法/価格帯など、
“その子の暮らしをどう良くするか”という設計方針を決める。
→ 「支え方の答えを出す工程」

このWACELが定まらないまま、「高たんぱくが流行っているから高たんぱくにしよう」などと進むのは完全に逆順。
フードは“流行素材を載せる器”ではなく、暮らしの課題を解決する設計物だからです。

実際によくある失敗としては、
・小型犬向けなのに粒が大きすぎる
・シニア向けなのに脂質が高く消化に悪い
・“皮膚ケア”を謳うのに根拠成分が不足している
・全犬猫向けにして結局誰にも刺さらない
といったケースが挙げられます。

ターゲット設定は、マーケティングの前段であると同時に、栄養設計そのものの前提条件です。
つまり「誰に向けたフードか」をWACEL+Hで描き切ることが、開発の土台であり、売れる理由をつくる最初の設計図になるのです。

設計図②:飼い主の“悩み(ジョブ)”を言語化する

ペットフードは“食べ物”である前に、飼い主の悩みを解決する“ツール”です。 つまり、フードの価値は「何が入っているか」だけでなく、「どんな悩みを解消できるか」によって決まります。

飼い主がフードを変える理由は、たとえばこうです。
・涙やけが気になる
・アレルギーが多くて合うフードがない
・うんちがゆるい
・肥満や関節が心配
・シニアになって食べる量が落ちた
・もっと長生きしてほしい

この“悩みの整理”ができていないと、商品は「健康そうなフード」以上の意味を持てません。
逆に悩みを掘り下げられれば、訴求は劇的に変わります。

例)
× 高たんぱく・グレインフリーです
○ 食べない子でも食べられる「香り立ち」と「粒設計」を重視しました

× 皮膚・被毛に良い成分を配合
○ 掻きむしりが減って夜ぐっすり眠れる子が増えています

重要なのは、機能より“悩みが解消された先の生活シーン”を想起できるかです。
ここが明確なフードは、飼い主の選択理由になります。

設計図③:栄養要件表を作る(ここが専門性の核)

Balanced diet food background. Protein foods: fish, meat, eggs, cheese, quinoa, nuts on dark background, top view.

ターゲットと悩みの整理が終わったら、次に必要なのがやっと「栄養要件の定義」です。 これが「設計図の中心」であり、差別化の本丸とも言えますね。

栄養要件表には、
・たんぱく質(最低・上限)
・脂質
・繊維
・炭水化物
・ミネラルバランス
・必須脂肪酸(DHA/EPAなど)
・消化率
・アレルギー対応
・プロバイオティクス量
・抗酸化設計
など、ターゲットと悩みに直結する条件を具体的に落とし込みます。

ここが曖昧なまま材料を決めると、
「健康に良いと言われている素材をとりあえず入れたフード」になり、
配合量も根拠が弱く、ともすると“ありきたりなレシピ”に寄ってしまいます。

つまり、栄養要件表がない開発は“偶然のフード”しか生まないのです。
この工程には専門性が不可欠で、獣医療・栄養・行動学の観点から要件を設計することが、ブランド信頼の起点になります。

設計図④:製造の選択肢を整理し、OEMは「価格」より「再現性」で見る

設計図①〜③までで、ターゲット(WACEL)と解決したい暮らしの課題、そして栄養要件という“商品コンセプトの骨格”が固まりました。

ここからいよいよ、その設計図を「どう形にするか=製造工程」の検討に入ります。

まず大前提として、ペットフードの製造には大きく次のような選択肢があります。

・自社工場での製造(設備投資・製造知識・管理体制が必要)

・外部工場への委託製造(OEM/ODM)

・既存フードのリブランド・共同開発型

この中で、特に新規参入や小規模事業者にとって現実的なルートになりやすいのがOEM(委託製造)です。

OEMとは、簡単に言うと「自社ブランドの商品を、製造設備を持つ外部工場に作ってもらう仕組み」のこと。

設備投資をせずに商品化でき、小ロット対応の工場も増えているため、初めてのフード開発でも参入しやすい選択肢になっています。

ただし、ここでやりがちな失敗があります。

それは、OEMを「価格だけ」で選んでしまうこと。

安く作れたとしても、設計図(栄養要件・粒形状・レシピ意図)が再現できなければ意味がありません。

そのためOEM選定で見るべきポイントは、

・栄養設計の再現力があるか

・特殊原料の取り扱い経験があるか

・加工方法(エクストルーダー/ベイクなど)を選べるか

・小ロット時の品質ブレを抑える仕組みがあるか

といった“実装力(再現性)”です。

OEM側に丸投げすると、の得意なレシピや標準設計に偏り、結局「どこにでもあるフード」になります。

だからこそ、メーカーとしての設計図 × 工場の技術 × 専門家チェックの三位一体で“狙った価値をそのまま形にする体制”をつくることが、売れるフード開発の分岐点になります。

設計図⑤:表示・広告表現は「専門家の監修」が必須

設計図の最後はフードを“売る”フェーズの話です。当然、作ることではなく売ることを目的として商品開発をするわけなので、開発の段階でここまで見据えておくことが非常に重要です。

知っておくべきはペットフードは表記や広告規制が厳しい領域、ということ。 

・治療効果を示唆する表現 

・根拠のない機能表現 

・法定表記の不足 

・成分量の誇張

などは行政指導や炎上の原因になります。

特に新規参入メーカーはここでつまずきやすく、“良いフードなのに伝え方で失敗する”ケースも。
安全で伝わる表現に落とし込むためにも、専門家の監修が重要になります。獣医師資格を持つ薬機法監修の専門会社もあるので、せっかくの優れた商品の信頼を落とさないためにも、自社HPや商品販売ページ、広告などの表現を専門家にチェックしてもらいましょう。

「売れるフード」は “設計図”の精度で決まる

ペットフード開発は、勘でもセンスでもなく、
「誰の暮らしを支えるか」をどれだけ解像度高く設計できたかで結果が決まります。
その土台になるのが、 WACELフレーム+H

W(Who)/A(Age)/C(Condition)/E(Eating)/L(Living)

──この5つの前提が揃って初めて、
「どんな悩みを、どんな栄養設計で、どんな形にして届けるか」という
“支え方の答え(How Support)”が導き出せます。

原材料選びは、ピースのひとつにすぎません。
その前に、
1)WACELでターゲットと暮らしの前提を定義する
2)飼い主の悩み(ジョブ)を明確にする
3)栄養要件とコンセプトを設計図として落とし込む
4)製造手段(OEM含む)でその設計図を再現できる体制を選ぶ
5)表記や広告表現まで“根拠ある安心”として整える
この一連の設計図が揃って初めて、原材料は“意味のある選択”になります。

そして新規参入企業ほど、この設計図づくりを専門家と一緒に進めることが欠かせません。
ターゲットの前提整理から栄養設計、表現の安全性まで、
正しい知見の裏付けがあることで、商品は「良さそう」ではなく「信頼できる」へ変わります。

WACEL+Hで“誰の生活をどう支えるか”を描ききる。
そのうえで専門家とともに形にしていくことが、
“売れて、続くフード”を生み出す最短ルートになるはずです。

【記事執筆】

株式会社101 代表取締役 CEO

小川 類 / Rui Ogawa

2006年、株式会社ONE BRANDを立ち上げ取締役に就任。「犬と暮らすライフスタイルマガジンONE BRAND」を創刊、2年で発行部数10万部に。10年間編集長として携わりつつ犬の飼い主向けイベントやペットビジネスのコンサルティング、ユーザーマーケティングを行う。 2018年、ONE BRAND取締役を退任後、フリーランスとしてベンチャー企業のスタートアップ広報やペット向けWebメディアの立ち上げ、編集長としてメディア運営を行う傍ら、多くのペット関連企業の販促施策やマーケティングを企画実施する。事業規模の拡大に伴い2022年に株式会社101を創業。

株式会社101ではペットビジネス支援を行なっており、その一環として獣医師による商品監修サービス『獣医師監修ナビ』を運営している。

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