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飼い主の心は“機能”だけで動かない──ペット商材が売れる“物語”の作り方

ペット商材のマーケティングに関わっていると、「機能には自信があるのに売れない」
「成分や設計の説明を丁寧にしているのに響かない」という壁にぶつかることがよくあります。“機能だけでは売れない”のは、ペット領域に限った話ではないですが、特にペット商材において、飼い主の心を動かすのは「機能」ではないのです。
このコラムでは、ペット領域で刺さる“シーン想起マーケティング”について解説していきます。

「機能訴求だけでは売れない」は今や全市場の共通現象

かつて、機能を語れば売れる、という時代がありました。
「この商品は従来より軽い」「成分が改良された」「性能が上がった」。
人は“より良い機能”に価値を感じ、それを買うのは自然なことだったのでしょう。

でも今は違います。
どんな領域でも“機能の差”はどんどん縮まり、情報も溢れています。

スマホ、化粧品、健康食品、調理家電、サブスクサービス…。
市場を見渡せば、どの商品も一定以上に高機能で、便利で、品質も良い。
企業側が必死に積み上げた差は、消費者の目から見ると「どれもまあ良さそう」に見えてしまう。

この“機能訴求の効きにくさ”は、ペット市場だけの現象ではなく、
情報過剰社会で起きている構造的な必然なのです。

機能の差が伝わらない本当の理由──比較の土台がない

機能やスペックの違いが価値になるのは、比較できる人だけです。
少し極端な例を出します。

車好きの人にとっては
「燃費が◯%改善」「トルクが上がった」「サスペンションが新設計」
という情報は魅力に直結します。
でも車に詳しくない人にとっては、そもそも“それがどれだけすごいのか判断できない”のです。

・標準値が分からない
・どのくらい違うと生活が変わるのか想像できない
・比較の観点が持てない

この状態だと、どれだけ特異性を語られても「すごいらしいけどピンとこない」で終わります。
つまり、スペック訴求は「リテラシーがある層」にしか届きづらい構造を持っています。

「リテラシーが高い層だけを顧客にすれば良い」企業であれば、それでもよいでしょう。しかし一般商品で多くの人に買ってもらいたい商材に関しては、そうはいかないですよね。
もっと言えば、リテラシーが高いユーザーですら「機能の差はどのブランドも似ている」と感じ始めており、「機能訴求」の限界を生んでいると言えます。

人は“機能”ではなく“未来の変化”を買うようになった

もうひとつ決定的な変化があります。
それは消費者の購買軸が、機能そのものから、生活の変化の実感(ベネフィット)へ移ったことです。

同じ機能でも、「その機能があることで、暮らしがどう変わるのか」が見えないと心が動きません。

たとえば、
× 機能訴求
「保湿成分を高配合。バリア機能を強化します。」

○ 未来訴求
「朝、鏡を見たときの“乾燥で萎える気持ち”が減った。
肌の調子がいい日が増えると、気分まで軽くなる。」

後者のほうが、生活の中に置き換えやすく、自分ごと化しやすい。
つまり、消費者は機能ではなく“機能が連れてくる未来”を買うようになっています。

機能は必要条件。

でも主役ではありません。

“暮らしがどう変わるか”の裏付けとして添えることで、伝わり方が一段深くなるのです。

ではペット商材はどうか

ここまでの話は、どの市場でも共通する背景です。
しかしペット商材には、さらにもうひとつ、強い“物語適性”があります。

ペット商材は、「生活の実感」だけでなく、「感情と責任」がセットで動く市場だという点です。

ありきたりな言い方ですが、ペットは家族です。
家族の健康や安全に関わる選択には、「失敗したくない」「ちゃんとしてあげたい」「後悔したくない」という強い感情が伴います。

つまりペット商材は、通常の消費以上に“理屈より実感、実感より感情”の影響が大きい領域なのです。

<h2>飼い主が本当に知りたいのは「暮らしの中での変化」</h2>

ペット領域では、機能説明が特に伝わりにくい背景がいくつか考えられます。

・栄養学や行動学など専門性が高い
・飼い主側に比較の土台(標準値)が少ない
・ペット本人は言葉で感想を言えない
・“良い/悪い”の判断は生活の中の変化でしかできない

この状態で「吸収率が◯倍」「成分が◯%増量」と言われても、その時点で飼い主は判断するのが難しいのです。

飼い主は、「その結果、うちの子がどう変わるか」を重要視しています。

例えば
「乳酸菌配合」より
「うんちが安定して、散歩中の不安が減った」

「オメガ3」より
「かゆみが落ち着いて、夜ぐっすり眠れるようになった」

「関節サポート成分」より
「階段を降りるときの足取りが軽くなってきた」

“生活の情景で語られた変化”が、最も強い安心材料になるのです。

ペットマーケティングで効くのは「シーン想起の物語」

だからこそ、ペット商材で最も強く効くのがシーン想起型の物語です。

作り方はシンプルで、
① Before(悩み)
② After(変化)
③ Scene(情景)
を揃えるだけ。

例:
Before:食べない、体調が心配
After:嬉しそうに完食
Scene:ごはんの時間の空気が変わる。飼い主もホッとする。

この“情景の連鎖”が見えると、飼い主は瞬間的に自分ごと化できます。
物語とは、広告コピーではなく、飼い主の暮らしの中の“どこに商品が置かれるのか”“どんな未来が生まれるのか”を作り出す行為です。

物語を作る4ステップ(ペット版)

では、その「物語」はどのように作るのかを見ていきましょう。至ってシンプルなステップです!

Step1:悩みを感情まで掘る
例:食べない
→「このまま弱ったらどうしよう」
→ 不安・罪悪感・焦り

Step2:解決後の暮らしを描く
→「食べてくれた。安心した」
→ 生活の安定、家族の空気感の変化

Step3:その変化を生む“理由(機能)”を整える
香り立ち、粒設計、消化サポート、栄養バランス
※ここは“裏側の支え”

Step4:情景に合う言葉とビジュアルを揃える
朝のごはん、散歩、寝る前のケア、家族の表情

この順番で設計すると、
スペックで比較できない飼い主にも“価値が届く構造”が作れます。

物語訴求の落とし穴と、専門家の必要性

物語が効く一方で、ペット領域でこれを活用する際には注意点もあります。

・効果を盛りすぎる
・治療効果を匂わせる
・根拠のない改善ストーリー
・感情の煽りすぎ

こうした物語は、炎上や行政指導につながります。
ペット商材は命に関わる領域だからこそ、“正しい物語”でないと信頼を失う。

だからペット領域では専門家との協働が、物語の安全性と説得力を支える基盤になります。

・どこまでなら科学的に言えるか
・どの変化は現実的か
・表現の安全ラインはどこか
を見極め、
感情だけでなく根拠を持った“安心できる物語”にしていく必要があります。

「機能」は重要。でも“売れる理由”は物語が作る

機能訴求だけでは売れない。
それは今や全市場に共通する構造です。

なぜなら
・機能差が埋もれる
・比較の土台がない
・人は未来の変化で買う
という社会背景があるから。

その中でもペット商材は、感情と責任が密接に結びつくぶん、物語がことさら強く効く市場です。

スペックを語る前に、「どんな未来の情景が訪れるか」を描く。
その上で、機能は“裏側の支え”として正しく添える。

この設計ができる企業ほど、飼い主に信頼され、選ばれ続けるブランドになっていくはずです。

【記事執筆】

株式会社101 代表取締役 CEO

小川 類 / Rui Ogawa

2006年、株式会社ONE BRANDを立ち上げ取締役に就任。「犬と暮らすライフスタイルマガジンONE BRAND」を創刊、2年で発行部数10万部に。10年間編集長として携わりつつ犬の飼い主向けイベントやペットビジネスのコンサルティング、ユーザーマーケティングを行う。 2018年、ONE BRAND取締役を退任後、フリーランスとしてベンチャー企業のスタートアップ広報やペット向けWebメディアの立ち上げ、編集長としてメディア運営を行う傍ら、多くのペット関連企業の販促施策やマーケティングを企画実施する。事業規模の拡大に伴い2022年に株式会社101を創業。

株式会社101ではペットビジネス支援を行なっており、その一環として獣医師による商品監修サービス『獣医師監修ナビ』を運営している。

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